オフィスカジュアルを自社に導入すべき?判断基準とメリット・デメリットを解説

オフィスカジュアルを自社に導入すべき?判断基準とメリット・デメリットを解説

筆者は2006年から企業向けの身だしなみ研修を提供していますが、このところはオフィスカジュアルの導入に関する問合せが急増しており、弊社の対応実績も100社を突破しました。

多くの企業が、「働き方改革の流れでオフィスカジュアルを導入しなければならない」という前提で問合せをされますが、しかし、すべての企業で必ずしもカジュアルへ移行した方が良いというわけではありません。

また、オフィスカジュアルへの移行はメリットが大きい一方で、デメリットも存在します。

そこでこの記事では、オフィスカジュアルへの移行を検討している担当者に向け、それが自社にとってが有益なものになるのかどうか、判断できる情報を詳しくお伝えします。

目次

そもそもオフィスカジュアルとは?

オフィスカジュアルの定義

「オフィスカジュアル」とは、職場で着られるるカジュアルスタイルのことです。明確な定義があるわけではなく、その実情は業種・職場によって実に様々。「確実に言えることは、スーツを着ないということだけ」というくらい多様で、そのことが企業としてのコントロールが難しい原因になっています。

オフィスカジュアルの歴史

オフィスカジュアルはいくつかの出来事をきっかけに、徐々に導入される企業が広がってきました。時系列で見ていきましょう。

2005年 クールビズ開始

地球温暖化対策の一環として、夏場、軽装で出勤することで冷房を節約しようと始まったのが「クールビズ」。日本の職場で大きくカジュアルウエアでの勤務が注目されたのはここからです。

この「クール・ビズ」という言葉は公募で選ばれたもので、2005年の「新語・流行語大賞」のトップテンにも選定されました。

それ以前にも「カジュアルフライデー」という取り組みがあり、米国企業に習って金曜日は肩の力を抜いた服装で仕事を、という動きがありましたが、これはアパレルメーカーなどが主導したこともあり、さほど浸透しないままでした。

しかしこのクールビズは温暖化を防ぐ大義名分があり、当時の小池百合子環境相が大きくPRしたことも功を奏して、広く導入されていきました。

2011年 東日本大震災による電力需給の逼迫

震災で発電所などの電力設備が被害を受け、また、原発の事故を受けて国内の原発が停止したことにより、電力危機が訪れました。街頭では看板のネオンや照明が消え、夏期にはさらなる冷房の節約を迫られました。

このタイミングで、まだクールビズを導入していなかった多くの企業が導入することとなり、クールビズの普及率が大きく高まる結果となりました。

この時期には筆者も新たにクールビズを導入する企業から急遽研修で呼ばれることが相次ぎ、テレビ東京「ガイアの夜明け」でもその模様が特集されました。

2019年 働き方改革 関連法案施行

労働力を増やし、労働生産性を上げるために「働き方改革」の法案が施行されました。

労働時間や賃金についての法律が変わる中で、直接法案化はされていませんが、より働きやすい環境にするという取り組みの一つとして、夏期以外もオフィスカジュアルを導入する企業が増加しました。

2023年 新型コロナウイルス感染症の「5類化」によるオフィス回帰

新型コロナの感染予防により、多くの企業が在宅ワークへ移行せざるを得なくなりました。その期間は当然、働きやすい服装で働いていた人がほとんど。オンラインミーティングの時のみ、上半身だけきちんとした格好に着替えるといったような行動も珍しくはなくなりました。

そんなコロナによる行動制限が解除されると、在宅ワークを導入していた多くの企業がオフィス勤務へと回帰。しかしただでさえオフィスに戻ることを嫌がる社員も多い中、一度カジュアル化してしまった服装をまたスーツスタイルに戻すことは難しく、「オフィスカジュアルで良いから出社してほしい」と、仕方なくオフィスカジュアルに移行する企業が急増しています。

また、時期を同じくして「職場のダイバーシティ(多様性)」も避けて通れないキーワードになり、その面でも服装の縛りを設けづらくなってきた企業が、オフィスカジュアル解禁に次々と踏み切りました。

オフィスカジュアルへ移行すべきかどうかの判断基準は?

かなりの企業がオフィスカジュアルを導入し始めていますが、とはいえ、どんな企業でも必ずオフィスカジュアルへ移行すべき、というわけではありません。

久野梨沙

弊社がオフィスカジュアル導入の相談を受けた際に提示しているのは、例えば以下のような判断基準です。

労働生産性が上がるか?

ビジネススーツなどのフォーマルウエアは体を動かすにはやはり不向きです。荷物を運ぶような力仕事も多いような職種であれば、オフィスカジュアルに移行した方が労働生産性の観点でのメリットは大きいでしょう。

また、オフィスカジュアルの方が気候の変動への対応が容易になります。猛暑の中でもスーツで移動したり、あるいは寒い中重ね着が難しいスーツでいるのもまた、働く人の健康を損ねやすくなります。外移動が多い職種も導入を検討するのがお薦めです。

一方、常に空調の効いた室内で、座ったままお客様に対応するような仕事であれば、ビジネスフォーマルによる効率の低下はあまり考えられません。そのような職種では、オフィスカジュアルに移行することでの労働生産性の面でのメリットは得づらいため、これ以降の基準に照らし合わせて最終判断します。

オフィスカジュアルの方が好印象になる業種(職種)か?

これが、最も重要にも関わらず判断が難しい項目です。そもそもどんな業種(職種)であれ、ビジネスの場であればスーツを着ているのが一番好印象なはず、という思い込みがある人も少なくありません。

確かにスーツは「きちんとしている」「信頼できそう」といった印象を与えることは得意な服装です。しかしビジネスでの好印象に必要なイメージはそれだけではありません。

そのことがよくわかる心理学の実験がありますのでご紹介しましょう。グリーンとギレス(Green & Giles,1973)による実験です。

市場調査対象リストへの登録のために住所を教えるように依頼したとき、調査員が

  • きっちりとした服装でネクタイを着用している場合
  • ネクタイを着けない服装だった場合

のそれぞれで、応諾率はどれくらい変わるかを調べました。

まずは、普段自分自身もネクタイを着用しているいわゆる「中流階級」の人に依頼をした場合の結果がこちらです。

結果は、調査員がネクタイを着用しているときの応諾率は圧倒的に高く93%という結果に。逆に、調査員がネクタイをしないカジュアルスタイルだと73%もの人がNOを示すという結果でした。

じゃあやっぱり、ビジネスではフォーマルスタイルの方が、何かとうまくいきやすいんじゃないかな・・・

そんな風に思われた方も多かったかも知れません。しかし、普段ネクタイを着けないいわゆる「労働階級」の人たちへの実験結果を見ると……

調査員がネクタイを着用しているときより、そうでないカジュアルスタイルの時の方が応諾率が上がる、という逆の結果だったのです。

このことから、ネクタイを着用したフォーマルスタイルは単に信頼感を与えるからビジネスに好影響を与えるのではなく、自分と似た服装をしているという類似性が親近感を生んでいる側面もあるのでは、と推測できるのです。ネクタイを着用しない層において、調査員がカジュアルウェアだった方が成績がよかったことも、それで説明が付きます。

つまり、ビジネスシーンで好印象を得るためには、単にきちんとした服装であればよいということではなく、お客様に親近感を抱いていただけるような類似性を持った服装であることも大事、ということなのです。

つまり、オフィスカジュアルの方が好印象になるのは、相手がオフィスカジュアルを着ている業種(職種)

筆者はビジネスマンに向けたパーソナルスタイリング(個人向けファッションアドバイス)も行っているのですが、美容院や飲食店をターゲットに開業した税理士から依頼があった際、それまで着ていたスーツではなく、新たにカジュアルスタイルを一式お見立てしてそれで営業に行くようにアドバイスしたことがありました。その結果、スーツを着ているときは開業のあいさつに行っても時間もくれなかった見込み客の反応が変わり、ちょっとした相談をしてくれるようになり、その積み重ねで顧問先をどんどん増やしていくことができたそうです。

オフィスカジュアルが受け入れられる地域性か?

全国の企業から身だしなみ研修をご依頼頂いていますが、そのきっかけの多くを占めるのが「中心部に会社を移転することになったから」というものです。都心など、中心部に通勤をしてそのエリアで仕事をする場合、服装も今の時流に載ったものにするとなじみやすくなります。今であれば、「働き方の多様性を確保する」ということが命題となっていますから、やはりスーツスタイルよりはオフィスカジュアルの方がしっくり来るでしょう。

逆に地域によってはまだまだ「仕事はスーツでするもの」という風潮が根強いエリアもあり、その場合にはオフィスカジュアルへの移行は慎重に検討すべきです。また、全国に支店展開している場合には、本社と支店で無理にドレスコードを統一しようとせず、地域性に即した身だしなみルールを拠点ごとに考えることも一考の余地があるでしょう。

クライアントの年齢層は?

地域性と同様に、クライアントの年齢層の点からも検討すべきでしょう。高い年齢層の人たちの中には、やはりまだまだ「仕事ではスーツを着ることこそが礼儀である」という刷り込みが強い人たちも見られます。入社したときからクールビズという文化があった40代前半までの世代であれば「スーツでなければ」というこだわりは少ないと考えられますが、それ以上の年齢層の人たちと主に会う職種の場合には注意が必要です。

逆に、若い層がクライアントである場合や、若い層に受け入れられる必要のある業種の場合には、一刻も早くオフィスカジュアルを導入すべきです。それは、スーツを着ているその姿が古さや堅さ、画一性といった若い世代にとってのマイナスイメージに繋がってしまいかねないからです。


オフィスカジュアルを導入するメリット

続いて、オフィスカジュアルを導入するメリットも見てみましょう。単に気候に対策しやすくなるだけではないメリットがあるからこそ導入企業が増えているのだとわかると思います。

様々なコストの節減に繋がり、効率化ができる

まず第一に画一的なスーツを脱げるということは、気候に合わせた服装ができるようになることを意味します。その結果、夏期・冬季の冷暖房コストの削減に繋がります。また、社員の働きやすさに繋がり、労働生産性の向上も期待できることは前述の通りです。

さらに、社員1人1人にとっても、オフィスカジュアルの導入は衣服費の節減に繋がります。スーツ1着の金額はオフィスカジュアル1式の金額の少なくとも3倍です。さらにオフィスカジュアルウエアはほとんどの場合、仕事以外のシーンにも兼用できるわけですから、社員の負担は大きく減るわけです。

オフィスカジュアルの移行時には、「新しく服を買わなければいけない」という理由で反対する社員が出ることも多いのですが、長期的に見たときのコストは遙かに下がるということを説明すれば、理解が得やすくなるはずです。

若い人材に支持されやすくなる

若い世代を中心に、「スーツは仕事にしか使わないのにそもそもその購入費を社員に負担させるのはおかしいのでは?」 という主張が出始めています。同じく、女性の場合にはすぐ破れてしまうストッキングについても同じような議論がありました。どの業界でも若手を中心に深刻な人手不足であり、少子化が続いている以上それが解消される見込みはありません。売り手市場が続くのが確実な中、若い世代にはスーツの着用を指定されるような企業を忌避する動きも出始めています。

オフィスカジュアルへ移行することは、そうした若手人材の確保にも繋がります。

社員1人1人が、自分の「見せ方」について自律的に考えていくきっかけになる

オフィスカジュアルには、スーツスタイルとは違って画一的な決まりやルールがありません。各自の役割や会う人によってその最適解が変わります。

弊社のオフィスカジュアル研修を受ければ、「カジュアルウエアのうち何をどう着ればどんな印象になるか」という知識は付きます。しかし最終的には、本人が「自分は誰に、どう見られるべきなのか」をわかっていないと何を着るべきかを決めることはできません。

オフィスカジュアルへの移行を上手く活用すれば、服装を通じて自分をどう見せるかを、社員1人1人が考えるきっかけにできるのです。

オフィスカジュアル導入時によくあるトラブルと、その解決策

さて、ここまでで「自社にはやはりオフィスカジュアルへの移行が必要だ」と判断した場合にも、しっかりデメリット面も考慮した上で導入に踏み切って下さい。

特にそのデメリット面が原因で労使のトラブルになった場合、こじれてからでは対応が難しくなりますから、事前にリスクヘッジや対応策を考えておくことをお薦めします。

身だしなみのレベルにばらつきが出てしまう

スーツと違って個人によって解釈にかなり幅が出るのがカジュアルスタイルです。そのため、企業としては認めがたいだらしない格好になる社員も現れる可能性があります。

「まさかとは思っていたが、暑くなってきたらハーフパンツにビーチサンダルで出社する社員が出てきた」
「破れたジーンズで来る社員に注意したら『だってカジュアルで通勤して良くなったんですよね』と言われてしまった」

などなど、こういった事例は枚挙にいとまがありません。

これは、ビジネスカジュアルの定義づけを行っていないことが原因です。導入前にどこまではOKなのかの意識のすりあわせを社員全員で図っておきましょう。

久野梨沙

弊社がサポートした事例の中には「ジャケットだけ制服として作る」など、一部制服化するという取り組みを導入して成功している企業もあります。

社員から反対の声が上がった

長期的に見ればオフィスカジュアルへ移行した方が社員にとっても負担は減ることが多いのですが、それでも元々スーツで通勤していた人にとっては、新たにオフィスカジュアルウエアを用意する初期費用はどうしても負担になります。それを理由に反対の声が上がったり、服の購入費用の負担を会社側に求める声が上がったりするケースがあります。

この場合には、「長期的にはスーツスタイルよりも金銭的負担は減っていくこと」など、この記事でお伝えしたメリットをしっかりと伝える必要があるでしょう。

また、弊社の研修では、オフィスカジュアルウエアのブランドと提携し、導入研修内で販売会を開くこともあります。人数次第では割引販売対応もできるため、初期費用の軽減に繋がると好評です。

異性の部下の身だしなみを注意しづらい

昨今では、「女性の部下への身だしなみの注意はハラスメントになってしまうのでは」と悩む男性の管理職も少なくありません。社内での身だしなみ基準を曖昧にしていると、注意する内容が属人的になり、ハラスメントへと繋がってしまうこともあります。

そうしたトラブルを避け、全員が安心して働くためにもやはり、身だしなみの基準は明確にしておく必要があります。できれば雇用契約に含めておくと安心でしょう。

上司がオフィスカジュアルを着ないので、部下も着替えづらい

会社としてはオフィスカジュアル導入を決め、リリースもしたのになぜかある部署のカジュアル化がなかなか進まない……。
それが、その部署のトップがカジュアルに着替えないことが原因だった、というケースも少なくありません。

例え大多数の社員がビジネスカジュアルへの移行に乗り気でも、トップが積極的に移行しなければ、それを飛び越してまでは着替えづらいものです。

そこで弊社がよくお薦めしているのが、全社横断的な「ビジネスカジュアル導入委員会」を作ること。そこへ部署の雰囲気を作るキーパーソンに参加してもらい、導入検討段階から参加してもらい、真っ先に着替えるようにするとスムーズに進みます。

まとめ

以上のような判断基準を元に、自社でオフィスカジュアルを導入すべきか検討してみましょう。

多くの企業が、「昔からスーツスタイルで勤務しているから」という理由で、慣例的にスーツスタイルを選んでいます。しかし、オフィスカジュアルには効率性の点でも、また、印象の面でもメリットが多くあります。自社の社員にとってどのような服装が最も働きやすく、そして対外的な印象を改善させるのかをこの機会にぜひ考えてみて下さい。

また、フォースタイルではファッションを印象や心理面から語れるプロ集団として、多くの企業のオフィスカジュアル導入をサポートしています。単にオフィスカジュアルに移行するかどうかではなく、もっとメリットの大きい服装戦略を一緒に立案させて頂くことも可能です。まだどうするか検討中という段階でも結構ですので、ぜひお問合せフォームからご連絡下さい。

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この記事の執筆者

久野梨沙 久野梨沙 スタイリスト・公認心理師

(株)フォースタイル代表取締役、(社)日本服装心理学協会代表理事、公認心理師。
服装心理学に基づくパーソナルスタイリングの第一人者。アパレルブランドの企画職を経て独立。経営者や文化人などのスタイリングの他、身だしなみ研修、心理学を活用した接客研修、従業員のメンタルヘルス支援などにも尽力している。

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